ノブくん竜さんシリーズ・小話
ピクブラにて開催の企画モノに参加した時の小話。

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色とりどりの気持ちを添えて



●登場人物●
笠木 修宏(かさぎ のぶひろ)
西脇 竜治(にしわき りゅうじ)



「は?園芸雑誌の取材?」
 思いの外すっとんきょうな声が出てしまい、彼は慌てて口をおさえた。
「静かに。周りの迷惑になるから」
 すっと口元に人差し指をもっていく仕草をするのは、彼の向かいのテーブルでメニューをながめている西脇竜治だった。西脇ほど業界が人間でも、音楽関係以外の取材は滅多にない。西脇自身、今回の仕事を告げられた際は、マネージャーの言葉を聞き返した。
「似合わないだろう。ガーデニングがメインの雑誌なんて。まぁ実際は、その中の企画物の取材だったんだけど」
 今日あった仕事を互いに報告しながら夕飯を外食にしようと言い出したのは、西脇の方だった。たまたま仕事を終える時間がほぼ近くて、車で十分ほどの場所で落ち合えると知ったからだった。
「企画モノ?」
 いさめられた相手、彼の恋人でもあるの笠木修宏。年下で、同じ音楽業界の後輩でもある。
 創刊十五周年の企画で、薔薇が似合う芸能人を世代別に数人アンケートをしたらしい。
「ありがたいことに、50歳以上の部門で選ばれた中に、俺も入っていたんだ」
 撮影用の衣装は別途用意されていたが、私服でもワンカットあると聞かされていたので、西脇は先日から好んできている新作ジャケットをきて向かった。
「どうりで今日はやけにかしこまっているなって思った」
 朝に家を出る時間はバラバラだったため、どんな服を着て出かけたかは、遅くまで寝ていた笠木には判っていなかった。先ほどレストランの前で待ち合わせした際に、現れた西脇の姿が少しお洒落をしていたので、ついさっきまで上機嫌だったのだ。
「撮影のためか」
 てっきり自分のためにコーディネートしてくれていたのだと思っていた。
「他に、どんな衣装をきたの?」
 メニューをぼんやり眺めながら、笠木はむくれた顔を隠しもせずに続けた。
「上下とも黒いスーツもあったし、タキシードも来た。あと珍しいところだと……なんだっけ」
 少し考えた後、パキスタンの衣装もきたと笑った。
「え、それ雑誌できたら教えてよ」
「おそらく、献本は事務所あてに1冊は来ると思うが」
 発売は2か月先であった。月刊誌ということもあり、なかなか手に取ることは少ない系統である。園芸雑誌なんて、笠木は手にしたこともなかった。
「そうだな、一時期のガーデニングブームも少し落ち着いただろうし、企画物で少し新たな層に手に取ってもらいたいのだろう」
「ちゃんと買うから、発売日わかったら教えて」
「お前が出ないのに?」
 何いっていんの、と笠木はメニューをパタンと閉じて向き直った。好きな相手の掲載されている雑誌なら、金を払ってでも見たいと思うもの。西脇のファンとて同じ答えを返すだろう。
「いや、なんていうか……」
 西脇は続く言葉に窮した。
 笠木は何かというと、西脇が関わるものを集めたがる。恋人というよりも、推しのコレクションをするファンの言動に近い。目の前に自分が居る、にもかかわらずだ。一方、西脇はというと、自分の引き受けた仕事を見届けるという意味ではチェックはするが、事務所が対応してくれていればそこまで躍起になる必要もなく、また恋人である笠木の記事もコレクションすることはまずない。気を配る前に、笠木自身が見て欲しいと自分の作品や掲載雑誌を手に、自らやってくるのだ。
「俺のものをそんなに集めて、どうするんだ」
「……だって、竜さんのファンはどんなものも取りこぼすことなく集めているだろうし、俺が把握していない竜さんの仕事、ファンよりも理解しておきたいし」
 要するに独占欲なのである。一緒に暮らし、寝食を共にしながら、独占欲も何もあったもんじゃないと思うのだが、それは西脇の気持ちであって、笠木は彼が思う以上に執着が深い。
「重いなんて言わないでよ、これでもずっと抑えているほうなんだから」
 ぶすりとしてテーブルに肘をのせると、長い指先を軽く握って、頬杖をついた。行儀の悪さを軽く注意したが、ついていた肘をおろしただけで、不機嫌な表情は変わらなかった。
「それ以上、苦い顔を見せるなよ。折角の料理が美味しくなくなる」
 西脇が軽く肩をすくめてみせると、ようやく彼の表情もやわらぐのだった。


「園芸雑誌って、どこのコーナーにあるもんなんだ?」
 予定よりも早く仕事を終わり、大型書店の前を通りかかった笠木は、スマホを立ち上げた。マネージャーからのメールを開き、雑誌のタイトルを確認する。
「全く、竜さんてばあれほど頼んでおいたのに、雑誌の詳細しらせてくれないし」
 レコーディングで忙しい西脇は、笠木からのメールになかなか返信をよこさない。発売日だけは事前に教えてもらっていたので、仕方なく笠木は自分のところのマネージャーに雑誌の詳細を調べてもらった。
「すみません、園芸雑誌ってどこのコーナーにあります?」
 レジの脇で端末をちょうどいじっている店員に声をかける。学生アルバイトだろうか。彼女はお待ちくださいと返し、端末で雑誌名を検索してくれた。
 あまり書店でもおかない類の本なのだろう、入荷されていたのはたったの二冊であった。一冊は既に売切れていて、残りを手にした笠木は、足早に帰路につく。
 目次を開き、指で一行ずつ確認していく。西脇の文字は見当たらないが、世代別芸能人ランキングなるタイトルが目に入った。急いで該当ページを開くと、最近よく広告に起用されている若手俳優や、昨年の映画で主演女優として賞をとった人、著名作家やお笑い芸人、様々な職種から名の知れた人達がピックアップされていた。
 音楽業界の中高年部門のところで、西脇の文字を見つける。年齢分けされた表記に少し思うところあったが、今は一秒でも早く西脇の写真をみたくて、失礼な表記は無視してページをめくった。
「タキシード……似合うなぁ……」
 高身長ゆえにぴんと伸ばされた背筋に、正装が映える。笠木はカジュアルなものを着こなすのは得意だが、こういったフォーマルはあまり似合わないので、素直に西脇が羨ましい。
「これか、パキスタンの衣装って!」
 想像以上に豪華で、目を引いた。西脇のきつめの顔立ちが、衣装にとてもマッチしていた。首元の割と上まできっちりと着込むタイプの民族衣装。肩からするりと落とされた長い布のようなものが、どこかインドのサリーのように見える。ゆるくカーブを描くそのドレープが、西脇の腕を一周し、下に長く伸びている。肩から胸にかけて施された刺繍らしき模様も、派手な色ではないのにきらびやかだった。 この衣装を選んだカメラマンもしくは企画者は、なかなか見る目がある。笠木は思わずにやにやとしてしまった。日本人の平坦な顔ではそう着こなせるものじゃないだろう。黒地に薄い黄色の布地の対比だが、色合いは地味である分、手にしている赤い薔薇が際立った。
「あ、そうか。主役は薔薇なんだよな」
 園芸雑誌であることを一瞬忘れて、ファッション誌を眺めるような気分になっていた。他の掲載者の衣装もざっと見たが、どうやら海外の各国の民族衣装をまとわせるのが共通しているようだった。イタリアの高級スーツを、シャツの胸元を大きくあけてポーズをとっている芸能人もいる。確かにセクシーなのだろうが、西脇の一切肌を見せない大人の渋さは、それに決して引けを取らない。
 衣装に合わせて、薔薇の色も白や黄色など色とりどりだった。
 一通り写真を眺めて満足した彼は、グラビア部分以外の記事もちらと見てみたが専門誌らしく、割とマニアックな記事が多目だった。ただ、後ろの方に色々な花言葉を書き連ねているコーナーがあり、薔薇にも色によって、示す意味が違うのだと知る。
「赤い薔薇は、愛、あなたを愛す、貞節、熱烈な恋……なるほど」
 白は、無邪気・清純・相思相愛・尊敬など。そのどれもが、西脇には似合うようにも思えて、それらをもし花束にして送ったらどうだろうか、などと笠木は想像を膨らませる。

「こら、何をにやにやしているんだ」
 いつの間にか帰宅していた西脇に、ぽんと頭を小突かれ、笠木は顔を上げた。時計を見るとすでに17時過ぎ。1時間以上も雑誌を眺めては、思いを巡らせていたことになる。
「竜さんの記事、ばっちりチェックしましたよ」
 じゃん!と雑誌をかかげて、誇らしげに振り返った。
「全く、俺よりも先に内容をチェックしたのか」
 よく雑誌名が判ったな、と彼は笑う。
「竜さんがなかなかメールに返事をくれないから、うちのマネージャーに調べてもらったんだよ」
 西脇ファンのツイートをチェックしたマネージャーが、雑誌名を確認し、ネットで入荷状況をチェックした上で、笠木に伝えたのだ。
「今日は早めに仕事が終わったら、久々に本屋にいったんだ」
 自分の雑誌すら本屋で滅多に買わない人間が、西脇のものとなると自ら買いに行く。
「薔薇には、色ごとに意味があるんだね」
「そうだな」
 笠木から受け取ったページの端は既にしおりがわりに折られて、花言葉が記載されていた。
「竜さん、もし薔薇を送られるなら何色がいい?」
 花言葉を目にしてから、色を選ぶのは少し抵抗がある。何でもいいさ、と彼は雑誌を返した。
「それよりも、今日は夕飯なににする予定だ?」
「あ、読みふけっていて全然考えてなかった」
 彼は雑誌をぱたりと閉じると、西脇と連れ立ってキッチンへと向かう。

 その後、笠木が悩みに悩んで、薔薇の花を贈ろうと画策するのはもっと先のお話。

 終わり










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